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『Jazz The New Chapter 4』柳樂光隆(監修)×荒野政寿(編集者)インタビュー

 ロバート・グラスパーやクリス・デイヴなど、現代の音楽/ジャズ・シーンを牽引するミュージシャンに焦点を当てた企画で、発売のたびに話題になる『Jazz The New Chapter』シリーズ。今から約2か月前の3月に、その最新シリーズ『Jazz The New Chapter 4』が発売となった。ビラルやジル・スコットをはじめ、ネオソウルの要人の貴重な証言が集まったフィラデルフィア特集。またアントニオ・ロウレイロ、カート・ローゼンウィンケルらが起点となったブラジル音楽特集など、今回もディープかつ新鮮な切り口の特集が並ぶ。では、その“中の人”たちは、今、どんな風に考えてこのシリーズを紡いでいるのか。本作の監修でジャズ評論家の柳樂光隆氏と、シンコーミュージック・エンターテイメント所属の編集者、荒野政寿氏に話を聞いた。

マイルス本は『Jazz The New Chapter 3.5』

--(本インタビューは4月上旬に収録)発売から一月ほどですが反響はいかがですか?

柳樂:そうですね。例えば、冨田ラボさんから感想をいただいたりとか…

荒野:とても長い、ありがたいTweetをしてくださいました。

柳樂:後は、People In The Boxの波多野くんとか、bobonosの蔡忠浩さんとか、ミュージシャンからの反響が多いですね。あと、小池(直也)くんっていう、今回レビューを書いてくれてるサックス奏者がいるんですけど、彼がやっている、ライブとレクチャーを組み合わせた【ネオホットクラブ】っていうイベントがあって。それに出た時に、来場者のミュージシャンとかジャズ研の子たちにも「読んでます!」って言われましたね。

--ミュージシャンの中でも特に音楽のリテラシーが高い人たち、という感じがします。

柳樂:そういう方にも読んでいただけているのはうれしいですね。

--本を作ってる時も、そういう読者想定はあるんですか?

柳樂:リスナー半分、演奏したい人半分みたいな。『ミュージック・マガジン』と『ドラム・マガジン』の間というか、そういうところを狙ってますね。

荒野:私見ですけど、ド文系っぽいジャズ評論って、理屈で物事を冷静に語らないものが多かった印象があって。音楽的な根拠とか理論より、どちらかと言うと感情や思い込みの方が重視されているような感じが、古くからあったと思うんですね。そういう意味で(『Jazz The New Chapter』は)あんまり文系っぽくない。「どういう風になってるんだろう?」っていうのを一個ずつ解析していっているような本で、それが4冊続いて、ますますそうなって来てる感じがしますね。

柳樂:でも、その“菊池・大谷”があったじゃないですか。僕としては、彼らがいて、その後に自分がいるという認識ですね。あの流れはありつつ、でも、あれはあれで、コードネームとかがいっぱい出てきて、実際に音楽をやっていない人には(本としては)ちょっと難しいので。もうちょっと『ミュージック・マガジン』的な人にも読めるように説明を考えてる感じですね。

--そういった狙いは早い段階からあったんですか?

柳樂:そうですね。

--なるほど。その辺りは当初から一貫してるんですね。

柳樂:『1』と『2』が前任の編集者と作って、『3』が荒野さんと彼の半々。で、マイルス本(『MILES : Reimagined 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』)と今回の『4』が荒野さんとなので、今ちょうど2.5冊くらいずつ一緒にやってる感じですね。

荒野:いや、『3』は少し手伝っただけで、ほぼ全部(前任者の)小熊だけどね。正直、彼が離れる時に「次はどうしようかな?」と思ったんです。最初に「柳樂くんに本を作って貰ったらどうだ?」と焚き付けたのは僕だけど、ブレーンとしてあの本を動かしてきたのは、ずっと彼だったので。最初の2冊は、全体の構成とかに関しても、編集者のビジョンや意見がかなり入ってたし。そこから、ゼロに戻ってやらなきゃいけないなと思って、意図的にマイルス本を挟んだんです。柳樂くんがどういう人で、何をどういう風に見て、どういう風に思うのか、感覚的にはなんとなく分かってたつもりだったけど、もう少し具体的に知りたいなと思って。マイルスは、素材としてすごく分かりやすいし、結果として、彼のジャズに対する考え方もよく分かりました。だから、あの本は独立したものじゃなくて、完全に連動した『Jazz The New Chapter 3.5』だったんです。

柳樂:グラスパーとか、ホセ・ジェイムズとか、エスペランザ(・スポルディング)とかは、(『Jazz The New Chapter』の前は)ほとんど誰もやってなかったんですけど、マイルスはもう手垢がついていたので、むちゃくちゃ知恵を絞って本を作りました。あれをやったことで、自分で書くだけじゃなくて、「他人に説明してもらうこと」とか「いまこれを一番的確に説明できるのは誰か」とかをより強く意識するようになりました。今まで山のように取材していて、ミュージシャンとも仲が良いから、そういうのをどうシェアするか?っていう方向に意識が向いたというのもありますね。それで『4』は特に取材が多いんですよね。

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ロイ・ハーグローヴのブレイクダンス

--たしかに今回インタビュー記事がより充実してますね。

荒野:マイルス本の時も、最初にブレインストーミングをやったんですけど、実現性はさておき…と言ってたら、「渡辺貞夫さんに話を聞こう」とか、ハードルが高そうなアイデアばっかりで(笑)。でも結果的にそこで出たアイデアのほとんどが実現できて、(マイルスの)担当ディレクターだった方々まで、考えていた通りに辿れたので、やって出来ないことはないんだなと。

 あれをやり切ったことによって、『4』をやる時はインタビューが多くなるんだろうな…という予感はありました。なるべく「これは無理だろうな」っていう発想は捨てて、やりたいものに徹底的にアタックしたんです。その時に、何が効いたかと言うと、柳樂くんのコネクションからミュージシャンが間に入ってくれて、そこからさらに別の人を紹介してくれる、みたいなことが起きて。今回のブラジルのアーティストとかも、ほとんど直で当たったもんね?

柳樂:そうですね。以前に会ってFacebookとかも繋がってたし、前から(アントニオ・)ロウレイロとカートの話とかもしてたんです。「ホントはジャズ好きでしょ?」みたいな。

荒野:そういう人たちの輪が並行して繋がって、最終的にカイピ・バンドとかになってるという。物事が並行して進む、という意味では作っていてスリリングでしたね。

--アーティストとのコネクションによって企画の可能性が広がる、というのは、『4』まで積み重ねてきた信頼感という感じがしますね。

荒野:でも、始めた段階で、マクスウェルとかビラルとかまで辿り着けるとは思ってなかったですね。だから今回のフィラデルフィアの特集は作っていて面白かったです。あれでザ・ルーツ(に取材)が出来てたら150点だったけどね(笑)。

柳樂:ハハハ。 クエストラブが出てきたら…

荒野:完璧だったよね。でも、これで勘弁してくださいっていう。

柳樂:でも、ビラルとか、ジェイムズ・ポイザーとか、ミュージック・ソウルチャイルドも出来ると思って無かったですからね。そこは僕がどんなリクエストを出しても荒野さんは簡単に「無理」って言わずに、とりあえず実現するために動いてくれたからだと思うんですよ。

 後はロイ・ハーグローヴとかも取材は難しいって言われていて。少なくとも5年くらいは取材を受けて無かったはずなんですよ。でも、実際に話してみたら、メチャクチャ機嫌が良かったっていう(笑)。

荒野:何が驚いたって、ロイはヒップホップの話をめちゃくちゃするんですよ。それどころか、紙面には反映できてないんですけど、俺らの前でブレイクダンスをしてましたからね。

--それはすごいですね(笑)


▲RHファクター『ハード・グルーヴ』

荒野:「こういうのやってたんだよね」って、いきなりその場で(笑)。自分がどれだけヒップホップが好きかを延々と話して。当時、RHファクターが出た時って、日本でそういうのを紹介する準備がないというか、どう扱って良いか分からなかったと思うんですよ。基本的にヒップホップを知らない方が、ジャズの評論をやってたと思うので、ちょっと戸惑った感じのレビューが多かった記憶があります。「とりあえず新しいぜ!」みたいな。本人の話を色々と聞いていてその辺がクリアになりましたね。

 実際に話を聞くまでは、RHファクターがどの程度まで本人発の企画なのか、半信半疑な部分があったんですけど、実際に話を聞くと完全に骨の髄までヒップホップ・ヘッズだったっていう(笑)。「じゃあ、ああなるな」と。で、その次の世代としてグラスパーがいて。グラスパーの音楽も、彼が影響を受けてきたジャズ以外の音楽を分かってないと理解できない部分がありますよね。

--グラスパーは『Jazz The New Chapter』シリーズのいわばアイコン的な存在として、『1』からずっと登場してますよね。

荒野:『1』は小熊がかなり苦労して作ったんですが、反響はすごく良くて。実は『1』って未だに売れ続けているんですよね。


▲ロバート・グラスパー・
エクスペリメント『ブラック・レディオ』

柳樂:いま『1』がちょうど良いですよね。宇多田ヒカルがクリス・デイヴとやったり、岡村靖幸がホセ・ジェイムズをフェイバリットに挙げたり。『1』はクリス・デイヴのインタビューも載ってるし。あと、最近の日本の若いバンドで、J・ディラっぽいことをやってる人たちが出てきたり。いま『ブラック・レディオ』の感じはちょうど良いんじゃないですかね。

荒野:でも、その間に我々も予想し得なかったことが色々と起きたよね。一番びっくりしたのはデヴィッド・ボウイの『★』ですけど。

--なるほど。

柳樂:『1』は売れたけど、みんな半信半疑で。と思ったらフライング・ロータス(『You're Dead』)があって、テイラー・マクファーリンがあって。「あれ、結構すごいんじゃない?」と思ってたらケンドリック・ラマーがあって、あれで完全に爆発しました。その後、マック・ミラー、ソランジュ、コモン、最近はデヴィッド・ボウイ、ア・トライブ・コールド・クエストと「生演奏すごい!」ってなってますよね。日本でもceroや冨田さんみたいな異常に早い人が反応して作品に反映していて。こっちが「なんか新しいな」って追っていた頃に、同じように新しいって感じてそれを形にしているミュージシャンたちがいたのは大きかったですね。

 後は日本人のジャズ・ミュージシャンが頑張ったっていうのもあります。今は、上原ひろみさんの同級生とか、その下の世代がどんどん頭角を出してきていて。黒田(卓也)さんも、ホセのバンド・メンバーだったのが、アルバムを出したら世界的に評価されて内容もすごく良くて。あとは、狭間美帆みたいな人がいたり、スナーキー・パピーがどんどん大きくなって、そこに日本人の小川慶太がいたり。BIGYUKIもアルバムを出して、Q・ティップの作品に参加してたり。彼らが活躍したことが、本にとってもすごく大きかった。そういう人たちを上手く紹介出来たおかげで、彼らに協力して貰うことも多くなりましたし、彼らが現地のシーンをわかりやすく伝えてくれたのは大きかったですね。

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一個のジャンルの知識だと追いつかない豊潤な現代音楽シーン

--今回の『4』は、フィラデルフィアとブラジル新世代がメインの特集という位置づけですが、他の企画も充実してますね。

荒野:欲張りなんだよね。こっちからすると特集なんて3つくらいで良いんです。でも「あれもやりたい、これもやりたい」でどんどん取材しちゃう。だから今回はオムニバス。今までの号と比べると、幅が広すぎるのかなという懸念もあるんですけど、そこは「ついて来てよ」と。これがいま世界中で同時多発的に起きている、ということが重要なんですよね。


▲チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルス
『アイ・ロング・トゥ・シー・ユー』

柳樂:やっぱり僕は本とか雑誌が好きなので、“編集”をやりたいっていうのがあったんです。例えば、今回(レーベルの)ブルーノートの特集をやって。きっかけはチャールズ・ロイドとかネルス・クライン、ノラ・ジョーンズ、ドクター・ロニー・スミス辺りの新作だったんですけど、ブルーノート自体を上手く紹介する特集を出したいなと思って。その時に、チャールズ・ロイドにインタビューして、アルバムについて語って貰ったりして、個人や作品にフォーカスするようなやり方ではなくて、レーベル自体のブランディングをしたいから、その方法を考えようというのがあったんです。だから、レーベルオーナーのドン・ウォズに彼自身の交流などを語ってもらってアメリカーナ的な切り口でレーベル全体を紹介したいな、とか。あと、A&Rのイーライ・ウルフにも、どうしても話が聞きたかったんです。間違いなくドン・ウォズと同じくらいブルーノートにとって重要な人物なので。

 そういう感じで「なにをどうプレゼンテーションするか?」っていうのは考えて作ってますね。フィラデルフィア特集も、ただ“グラスパーと関係のあるネオソウルの人”でまとめるのもどうかな?と思って考えたものだし、ブラジル特集もそうで、アントニオ・ロウレイロが面白いので、ずっと取り上げたいと思ってたんですけど、ただアントニオ・ロウレイロを紹介しても「ふーん。いま色々いるね~」っていう感じで終わっちゃうかなと思って。それよりも、今までブラジル音楽を聴かなかった人が、ブラジル音楽を聴きたくなるような特集を考えたいなと。そういう感じで、今まで聴いてなかった人に新鮮に見えるように、ちゃんと編集して届けるというのを、荒野さんと色々と相談しましたね。

荒野:カリーム・リギンスも、本当はもっと騒がれていいはずの人なんですけど、それほどメディアに取り上げられてる印象がなくて…。僕が最初に会ったのは、90年代にコモンの来日メンバーとして、DJシニスタとかと一緒に来ていて。その時はカリームのことを全然知らなくて、彼に「普段何してるの?」って聞いたら、「日本は初めてじゃないんだよ。大西順子って知ってる?」って言われて(笑)。そういうストレートなジャズもやりつつ、自分で音も作ってるっていうことも言ってて、当時からコモンにすごく大事にされてましたね。リハーサルも観てたんですけど、リハが終わった後も、カリームとシニスタだけステージに残って1時間くらいぶっ続けでセッションしていて。

柳樂:へぇ。

荒野:シニスタの掛ける曲に合わせてカリームがずっとドラムを叩くっていう謎の時間(笑)。スタッフも呆れて誰も居なくなってるのに、二人だけで気が済むまでやってて。ライブが終わった後も「どっか演奏出来るところは無い?」みたいな感じで。

柳樂:ジャズ・ミュージシャンはそうなんですよね。

荒野:本当に全身音楽っていう感じでしたね。

柳樂:あと、荒野さんは元『WOOFIN'』で、ヒップホップにすごく詳しいので、取材する上で、その知識がすごく役に立ちましたね。例えばグラスパーにインタビューしてて、「アーマッド・ジャマルのあの曲を使ったNASの曲、なんだっけ?」みたいになっても、荒野さんが知ってるみたいな。カートの時も、僕らは多分、世界で最初に音源を聞いたメディアだったんですよ。

荒野:去年の夏だったよね。


▲カート・ローゼンウィンケル
『カイピ』

柳樂:まだ何も発表してない時期で、事前に音源は聴かせられないけど、(アーティストの)目の前で一緒に聴いて、その場で質問するんだったら(インタビューしても)良いよって、結構無茶ぶりをされて(笑)。クレジットも分からないから、誰が参加してるのかも分からない状態で、いきなり「この曲にクラプトンがいてさ」とか言われて、「え? エリック・クラプトン?」みたいな。

--(笑)。

柳樂:謎でしたね(笑)。で、僕はジャズ評論家で、他のジャンルも少しは知ってるけど、何でも知ってるわけじゃないから「エンジニアがポール・ステイシーで…」とか言われても分からなくて。そしらた荒野さんが「それってオアシスのエンジニアをやってる人だよね?」って聞いてくれて。そういう時に荒野さんがめちゃくちゃ活躍するんですよ。

荒野:でも、それくらい一個のジャンルの知識だと追いつかないほど、今のジャズは豊潤なんですよね。色んなことが起きちゃってるから。僕は元々、オルタナとかを聴く前は、ずっとプログレとか、アヴァンギャルドなジャズしか聴かなかった時期があって。いわゆる変拍子オタクみたいな。で、今回取り上げたアーティストでも、BIGYUKIさんのアルバムは、プログレの耳で聴いてもとんでもないんですよ! でも、意外とそういうプログレ好きの人たちに届いてないと思うんです。実際、彼はプログレ・バンドにいたこともあるわけで。相当語彙が豊富なアルバムなんですよね。ジャズやニューチャプター的な感覚だけでは理解しきれないサウンドかも知れない。

 それは他の掲載アーティストもそうで、ブラジルのディスク選とかも音楽的にはバラバラで、一個のジャンルという感じじゃないんです。フェリペ・コンチネンチーノとかはレディオヘッドやプログレに通じるところもあるし、ペドロ・マルチンスなんかも自分の世界を持っている。多様性が進んでいて、一つの国でも共通する音楽的な傾向はあって無いようなもので。今はまとめて紹介できてるけど、今後はどうなるか分からない、みたいな感じもありますね。今だったら、ストリーミングで実際にアルバムを次々に聴きながら読むとすごく面白いと思いますよ。この本に載ってるものは大抵聴けるから。

柳樂:ECM以外はほとんど聴けると思います(笑)。

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ロバート・グラスパーは「全然エゴが無い」

--本当に“今”のことを沢山載せていて、いわゆるディスクガイドっぽくは全然ないですよね。

柳樂:ディスクガイドっぽくならないようにしようっていうのは、早い段階で小熊とも話してましたね。あと、マイルス本を作ったことで、もうちょっと歴史にフォーカスしても良いんじゃないかなと思うようになりました。今回で言えば、フィラデルフィア特集とか、最後の鍵盤特集とかも割とそんな感じ。「これが新しい!」っていうのを紹介するだけじゃなくて、過去との繋がりみたいなものを今まで以上に深く掘り下げるすると言うか。むしろ、そっちにも軸足を置いてみたっていうのはありますね。

 よくネットだと「ジャズ評論家やジャズ・リスナーは面倒くさい」とか「保守的だ」とか言われがちだけど、今はジャズ・リスナーが一番柔軟だと思ったのもありますね。戦前生まれの瀬川昌久さんも『3』で新世代のビッグバンドを取り上げた時に喜んでくれたし、いーぐるの後藤(雅洋)さんも「ジャズは今、新譜が面白い!」って言ってますからね。

--「ジャズ」という切り口で色んな音楽が聴けるという意味で、ジャズが好きな人にはすごく楽しい時代ですよね。

柳樂:本当はずっとそうだったんですよ。スティーヴ・ガッドとかチャック・レイニーとかもそうだし、ジョニ・ミッチェルとかスティングもそうですよね。でも、それがある種のシーンというか、ムーブメントのような形にまとめることができるほど出てきたから。やっぱりグラスパーとノラ・ジョーンズがすごいんですよ(笑)。

--ジャンルをクロスオーバーするパワーみたいな部分ですか?

柳樂:そうですね。後はセールス的に牽引したことも重要ですよね。(グラスパーは)本当に上手くて色んなこと知ってるのに、絶対にひけらかさない。全然エゴが無いんですよね。「俺はすごいんだ!」みたいなことは言うんですけど、それでも「なんでこんなにエゴがないの?」って思うくらい。普通は目立ちたいじゃないですか?

--目立とうと思えば目立てるポジションですもんね。

柳樂:ガンガン弾いて「俺はこんなにすごいんだ!」みたいなところが全然ないんですよね。でも、やっぱめちゃくちゃ上手い。リスナーの中には「意外と大したことないじゃん」って思ってる人もいると思うんですけど、難しいことしないだけで本気出されたらやばいですね。高校の時から天才児で、次のジェイソン・モランって言われてた人ですから。

--結果的に、すごく独特のポジションを築いてますよね。

柳樂:今後もこのポジションはなかなか出てこないと思いますよ。歴史的に見ると、ハンコックが近いですけど、ジャズの外での仕事を考えると、グラスパーはハンコック以上のことをやっている部分もあるんじゃないでしょうか。

--なるほど。グラスパーの6月の来日はどうですか?

柳樂:ビラルのギタリスト(マイク・セバーソン)が来るんですよね。あと(ドラムの)ジャスティン・タイソンもすごいですよ。クリス・デイヴ、マーク・コレンバーグより、もう少し繊細なプレイも出来て、ジャズ寄りの人ですね。マークは良い意味で個性的過ぎるので、それよりプレイの幅も広くて、若手では一番伸びてる人です。

 たぶん、もう『ブラック・レディオ』モードは、バンドとしても終わっているので、普通にみんなでガンガン演奏して、インプロビゼーションしたいんじゃないかなと思います。トリオとは違う形で、グラスパーがどんだけスゴいかが分かるんじゃないですかね。

--なるほど、楽しみです。でも、まだまだ底が知れないところがある、というのはすごいですね。

柳樂:今までに8回とか9回インタビューしてるんですけど、僕は毎回ずっと喋ってますね。グラスパーのことなら聞きたいことがいくらでもあるから。今回の本でも、グラスパーの鍵盤奏者としての凄さがこれ以上、見過ごされるのが嫌だなと思って、それでピアノについて話を聞いたんです。この間「俺はビギー(ノトーリアス・B.I.G.)なんか聴いてない」って言ってディスられてたラッパーがいたじゃないですか?

--リル・ヨッティですね。

柳樂:そう。ああいうことはジャズではあり得ないんですよ。口で言うことは出来ても、絶対にバド・パウエルを聴いてないと出来ないジャンルなんです。今だったらハンコック、チック・コリア、キース・ジャレット、ブラッド・メルドーも。基礎教養が絶対に必要な音楽なんです。

荒野:そこがロックとの大きな違いですよね。必ずプラクティスの段階を経てないと出来ない。

柳樂:それがあった上で、その中から何をやるか?何をやらないか?という話なので。でも、そういう自分のルーツを掘り下げる話って信頼関係がないときちんと答えてくれないだろうなと思って。初めて行った人がピアノの話を聞いても「ハンコックから影響を受けた」って言われて終わりだろうから。そういうのを考えて、自分にだったら深く話してくれるだろうなと思ってやったところはありますね。


▲BIGYUKI『グリーク・ファイアー』

 新しい人って、ただ「新しい!」みたいに言われがちじゃないですか? 新しければ、過去との接点はどうでも良いみたいな。でも、例えばBIGYUKIの新しさは、ラリー・ヤングとかを踏まえての新しさだから。それはちゃんとジャズを聴いてきた人じゃないと聞きだせない話ですよね。BIGYUKIがベーシストを研究しててって部分でも、どうしてもネオ・ソウル系のデリック・ホッジとかピノ・パラディーノがすごい、みたいなところで終わっちゃうんだけど、やっぱりジェームズ・ジェマーソンとかを知ってるから、ああなれるわけで。そういうことをちゃんとやりたい、というのはありますね。あとは、いま起きてることに関する情報自体が常に少ないから、少しでも情報を集めたいなというのもあります。

--本を読んでいても、無理やり結論付けるような感じではなく、オープンエンドな感じがあるのがすごく良かったです。

柳樂:あの本に出てくることは全部が現在進行形なので。ジル・スコットやジェイムズ・ポイザー、ビラルも、過去にもインタビューはあるんですけど「いま聞きたいことを聞きたい」っていうのはありましたね。

 あと“ジャズの本”だっていうのは荒野さんも僕もすごく意識してます。メディアって「いま流行ってるから取り上げます」みたいなのが多いじゃないですか。でも、僕らは「ジャズやジャズシーンに関係のあることを取り上げる」っていう意識でずっとやってます。(『3』で)テラス・マーティンにインタビューするにしても、どういうシーンから出てきたのかっていう話は必ず聞いてもらう。ビラルも普通にインタビューしたら「プリンス」で終わっちゃうじゃないですか。

--たしかに。

荒野:柳樂くんのビラルへのインタビューを横で見てたら、ホーミーのことを聞いていて「良いことを聞くなぁ」って思いましたね。そしたら案の定、本人もホーミーにトライしていて。

柳樂:やったけど出来なかったって言ってましたね(笑)。

荒野:でも、それくらい探究心があるシンガーなんですよね。

柳樂:ビラルはネオソウルだからソウルの話を聞く、みたいな感じにせず、ジャズ・メディアとして話を聞くということはすごく意識してますね。

荒野:でも、ビラルも「ジャズ・シンガーになりたかった」ってはっきり言ってたもんね。

柳樂:そうですね。本当は話したいけど、聞かれないから話せないことってあるじゃないですか。そういう本質に近いけど、他の人が聞かないことを聞いて、出来るだけ情報を集めたい、というコンセプトですね。意外とそういうメディアって少ないないですよね。

荒野:で、『5』は何をするんですか?

柳樂:アメリカーナかな。ジュリアン・ラージのインタビューが超面白くて。「君たちが思ってるジャズは基本的に海岸沿い、LA、NYだ」「でも、チャーリー・パーカーはどこから生まれてきたか知ってるか?カンザスだ」と。で、「ジャズは基本的に、アメリカの真ん中から生まれて、ビジネスするために両サイドに行く文化」「僕がやってるのは“真ん中”なんだ。オーネット・コールマンも真ん中から出てきたんだ」って。すごく面白くないですか?

夜物語
チャイナ・モーゼス 黒田卓也 テオ・クロッカー「夜物語」
2017/04/19
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フル・スロットル
メガプテラス 黒田卓也 西口明宏 宮川純 中林薫平 柴田亮 カミラ・メザ「フル・スロットル」
2017/02/15
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ラヴ・イン・ア・タイム・オブ・マッドネス
ホセ・ジェイムズ「ラヴ・イン・ア・タイム・オブ・マッドネス」
2017/02/15
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ダブル・ブックド
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海野俊輔 西口明宏 黒田卓也 宮川純「ミラージュ」
2016/11/09
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FM COCOLO『J-POP レジェンドフォーラム』9月は桑田佳祐『がらくた』特集! 片山敦夫と斎藤誠をゲストに迎えた番組トークvol.1を公開
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キーボードの片山敦夫と、ギターの斎藤誠が『がらくた』の中から好きな曲をピックアップし制作秘話などを語る―。
トレヴァー・ホーン『ザ・リフレクション』インタビュー~世界的プロデューサーが語る初のアニメ・サントラ制作
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曲作りやプロデュースのときでも、脳裏に浮かぶ映像がヒントになる
【Live Music Hackasong 参加企業インタビュー】
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ワン・トゥー・テン・ホールディングス
中村雅俊 『どこへ時が流れても/まだ僕にできることがあるだろう』インタビュー
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「今この瞬間をどう生きるか」
楽園おんがく Vol.38:ヤギフミトモ インタビュー
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「今までとは違った表現や歌詞の内容も違うメッセージの楽曲を作っていきたい」
全米ALチャート首位獲得!LCDサウンドシステム『アメリカン・ドリーム』発売記念特集
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シーンへの本格的な復帰を果たした21世紀最高のロック・バンドの魅力に迫る
フェニックス 来日インタビュー
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トマ&クリスチャンが語るライブ体験と尽きないチャレンジ精神。
新世代ジャズとテラス・マーティン ~来日直前インタビュー&プレイリスト
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なぜいまテラス・マーティンに注目すべきなのか

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