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相対性理論【証明III】テクノロジーを駆使するバンド、共同研究者にすらなれない私たち

 すべての人間は2つに分けられる。「相対性理論の証明」という文を見て、アルベルト・アインシュタインを思い浮かべながら頭を抱える人と、やくしまるえつこを思い浮かべながら頭を抱える人である。

 相対性理論の自主企画ライブシリーズ【証明】が、2017年6月17日に東京・中野サンプラザホールで閉幕した。毎度3公演で完結する自主企画ライブシリーズ。今回の第1回公演はシリアン・テクノの国際スター、オマール・スレイマンとの2マンライブとして東京で、第2回公演はバンドにとって3年半ぶりとなった大阪で開催。そしてラスト【証明III】は、昨年夏の武道館公演【八角形】以来約1年ぶり、東京でのワンマンライブとなり、やくしまるえつこのオリジナル新装置「YXMR Ghost“Objet”」(ヤクシマル・ゴースト・オブジェ)もお披露目された。

「…………」

 開演時間が近づくと、鈴木慶一(ムーンライダーズ)による名作ゲーム『MOTHER2 ギーグの逆襲』のエンディングテーマで、発表から16年後、2010年にやくしまるえつこの歌唱によって初の公式歌入りバージョンとして発表された「SMILES and TEARS 2010」などが流れ、会場は早くも独特な雰囲気に。そして暗転、SEが流れ始めると、ステージ前に引かれた黒い紗幕にムービーが投影され、メンバーに遅れてやくしまるが登場。蛍光灯に似たお馴染みのオリジナル9次元楽器「dimtakt」(ディムタクト)を両手で低く持ち、赤いベールのような羽織をなびかせながらゆっくりと歩を進めていった。

 さらにやくしまるは今回、この「dimtakt」に加え、オーディオ/ビジュアル・3Dコントローラとして「YXMR Ghost“Objet”」を導入。これはインタラクティブ式楽器「KAGURA」のシステムをベースにオリジナルバージョンへチューンアップしたもので、ジェスチャーや動きで音や映像から照明までをコントロールし、その様子をリアルタイムでムービーとしてスクリーンに映し出すことが出来る。彼女がステージの中央へ到着し、SEからの流れで披露されたポップなナンバー「ウルトラソーダ」でも全面にムービーが流れ続け、さらには何本ものレーザービームが四方八方に飛び交い、あちこちでクリームソーダの泡を彷彿とさせるエメラルドグリーンの輪が踊る。相対性理論の得意とするテクノロジーと音楽の融合で、瞬時に観客の心を奪ってみせると、そのまま一気に3曲を演奏。やくしまるはくるくると回る後光を受けながらのんびりと水を飲んだ。

「幕が開いたらそこはもう、相対性理論 presents、証、明、III」

 オープンした紗幕の奥には、向かって左から吉田匡(b)、itoken(dr,key)、山口元輝(dr)、永井聖一(g)が一直線に整列。やくしまるは数メートル前、譜面台や撮影機材などに囲まれており、すぐ後ろにはソファまで置かれているため、普段から漂う“お嬢さん感”も倍増。複雑なリズムと言葉遊びが秀逸な「ケルベロス」では、両手にはめた犬のパペットをリリックに合わせて“わんわん”。こういった可愛らしいお遊戯を堅実な演奏で支えるメンバー、やくしまるの配下にあるような気すらしてくるが、6曲目「キッズ・ノーリターン」辺りからバンドとしての存在感も確かなものとなる。

 ツインドラム編成でライブをするようになってから、より力強い生演奏のアンサンブルで魅せてきた相対性理論。「キッズ・ノーリターン」も原曲では粒の立つベースラインをはじめ、キーボードやパーカッションの軽快さが際立つが、この日は金属的なストラトキャスターから始まり、トレモロアームを駆使したロングトーンなど、ギターの歪みが特徴的なアレンジに。畳み掛けるようにロールするツインドラム、うねるように流れるベース、真っ赤なライティングも相まって、それまでの夢幻的な雰囲気に電流のような衝撃が加わった。

「不老不死、体験中」

 続く「13番目の彼女」から「ペペロンチーノ・キャンディ」も力強いバンド・サウンドを押し出すような形で演奏。しかし「バーモント・キッス」ではまた一転、永井の奏でるシンセサイザーを軸として、不協和音も織り交ぜた打ち込み系のアレンジだ。どの瞬間を切り取っても視覚的に美しく、且つ音楽への深い造詣を感じさせるバンドは数少ない。それも時にキャッチー、時にエニグマティック。自主企画だからこそ増す魅力でもある。

「東京は今、夜の7時半。お告げの時間です」

 この一言からステージ背後に東京・井の頭公園のムービー、会場全体にやくしまるの定時放送が流れ、同公園を舞台にした映画『PARKS パークス』のエンディングテーマである「弁天様はスピリチュア」がスタート。一階席と二階席の間をめがけて放たれるレーザービームの帯は、下から見上げれば空、上から見下ろせば海のよう。ここでもやくしまるは「dimtakt」を使用。アウトロで高らかに掲げ、素早く振り下ろしたかと思うと、そのタイミングで「スマトラ警備隊」のドラムが印象的なイントロが鳴り出した。もちろん計算されたパフォーマンスだが、それを忘れさせるほど完璧に作り込まれた空間。やくしまるが気まぐれで世界を動かす神のようにすら見えてくる。

 その神が地球と交信するソロ名義の壮大なナンバー「ロンリープラネット」では再び紗幕が下り、生物と思われるイラストが出現。これもモザイク画のやくしまると連動しており、ふっと手を払えば音を発して画面の外へ消えたりと、またユニークなテクノロジー演出が見られた。ちなみに彼女は羽織りを脱いでチャイナ服モチーフの衣装となっていたのだが、楽曲のラストではこの日唯一、素の姿が大画面に映し出されることになる。

「だ、る、ま、さ、ん、が、こ、ろ、ん、だ。ハロー、ザ・ワールド」

 相対性理論だけに留まらないセットリストで世界は更に拡大。MONDO GROSSOの最新アルバム『何度でも新しく生まれる』の収録曲で、やくしまるがヴォーカルを担当している「応答せよ」はライブ初披露。さらには“人類滅亡後の音楽”をコンセプトにしたソロ名義の「わたしは人類」も奏でてみせた。この楽曲には微生物の塩基配列が組み込まれており、楽曲情報を染色体に持つ「遺伝子組換え微生物」も作品として発表されている。そのためライティングもDNAをイメージしたものに。音に合わせてらせん状の光が蠢く中、きらきら眩しい轟音は約9分に渡ってかき鳴らされた。

「またね」

 本編が終わりアンコールの拍手が起きかけるも、どこからか流れてきたデジタル音がそれを阻止。静まり返る会場。約2,000人が薄明かりのステージを見つめるという不可思議な数分が過ぎ、まずはメンバー4人、それに続いてやくしまるがコツコツと足音を響かせながら再登場した。チャイナ服はそのまま、下には鶴の描かれた黒っぽいロングスカートを重ねている。辺りは鮮やかなピンク色に染まり、バンドの名を一気に広めた代表曲「LOVEずっきゅん」、締めは最新アルバム『天声ジングル』のスタートを飾る「天地創造SOS」。やくしまるは歌いながら耳に宛てていた受話器に呟いた。

「おやすみ」

 電話を切って淡々と姿を消したやくしまる。一人残った永井は自身のカメラで客席を撮影し、無邪気な笑顔で手を振った。まったく「相対性理論の証明」は難題であるが、その唯一無二の証明を行うのは彼ら自身。私たちは共同研究者にすらなれず、いつまでも傍観に徹するしかないようだ。

TEXT:佐藤悠香
PHOTO:MIRAI sesaku, Hazuki Muto

◎セットリスト
【相対性理論 presents『証明III』】
2017年6月17日(土)東京・中野サンプラザホール
01. ウルトラソーダ
02. ベルリン天使
03. とあるAround
04. ケルベロス
05. 夏至
06. キッズ・ノーリターン
07. 13番目の彼女
08. ペペロンチーノ・キャンディ
09. バーモント・キッス
10. 弁天様はスピリチュア
11. スマトラ警備隊
12. 帝都モダン
13. ロンリープラネット
14. 応答せよ
15. おやすみ地球
16. FLASHBACK
17. わたしは人類
EN1. LOVEずっきゅん
EN2. 天地創造SOS

◎映像
『天声ジングル』予告篇:http://youtu.be/nnxwD_DisOE
「ケルベロス」MV:https://youtu.be/hLMJXH8TMJg
「わたしは人類」ライブ映像:https://youtu.be/aIVMQvbNfbE

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