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ファーザー・ジョン・ミスティ 初来日直前インタビュー(前編)「今のレコードっていうのはもう際限なく音がダブっててちょっとクレイジーだよね。」

 今月末に開催されるフジロックフェスティバルが待望の初来日となるアメリカのシンガーソングタイタージョシュ・ティルマンのプロジェクト。元フリート・フォクシーズのドラマーとしても知られる彼のたぐいまれなリリックセンスに、ライブパフォーマンスはハイパワーエナジーで見るもの誰もが彼の虜になってしまう。3枚目のアルバム「Pure Comedy」をひっさげ初の来日公演となるフジロックフェスティバルを前に、ロサンゼルスの自宅にいる彼にインタビューを敢行した。

<ファーザー・ジョン・ミスティ インタビュー>

――新しいアルバム『ピュア・コメディ』ですが、トーンがとても美しいですね。そして全然飾り立ててないような音をしてる時でもフルな印象が受ける作りになっていると思います。アナログ録音したのですか? そうだとしたらアナログ録音したことがどのくらいアルバムの音に影響したと思いますか?

ジョシュ・ティルマン (以下 ジョシュ):デーモン・クルコウスキー(※)の『ニュー・アナログ』って本知ってる?すごく面白い視点で書かれた本なんだけど。

 君の質問に答えるとしたら、アナログ録音をするのは産業革命に対する反発だとか、純粋な音を欲するからとか、そういう風に考えがちでしょ?でもさ、アナログの良さっていうのはただ単にありのままを表現できるってことなんだよ。音の違いはそれほどでもないの。録音する時に同じようなアウトポートを使ってたら、本当にアナログかデジタルかの違いが分からないくらいに、その差は微々たるものがそのまま音に残るってことなんだ。曲の本質を殺してしまうくらいに編集できるような幅がほとんどないからね。一旦編集を始めたら、ハムスターがまわし車に乗ったみたいに止まらない!みたいなことがあるだろ? 最近の音楽ってみんなそういう風に作られてるしね。「間違ったら編集すればいいさ!」っていうのが合言葉になってるような感じで。

 このレコードを一緒に作ったのは素晴らしいミュージシャン達でね。すごくやる気満々だったし、僕は自分の本能とか彼らの能力を信じたかったんだ。それに究極のところ人間って、後でやり直しがきかないって知ったらすごい能力が発揮できたりするだろう? そんな感じでレコーディングしたんだよね。まあ実験的なものだったけど。僕は従来のレコーディングの仕方ももちろん好きだけど、このアルバムがもしアナログ録音じゃなかったらどう違ってたか聞かれたら、正直わからない。

 でもこのレコードに関してはちょっとホリスティックな感じにしたかったんだ。この質問するときに大抵の人は「なんでそんなに古いものが好きなの?」って先入観を持って聞いてくると思うんだ。でもね、本当にそうじゃないんだ。古いモノ 対 新しいモノの論理とかじゃなくて、「どうやってレコーディングするか?」って、単純にそういう雰囲気の中で作りたかっただけなんだ。

※アメリカで活動していたロックバンド ギャラクシー500のドラマーで、ハーバード大卒

――それは素晴らしいですね!あなたのボーカルとピアノが織りなす色調がとても美しいと思うし、褒め出したら語りつくせないくらいに素晴らしいレコードだと思います。

ジョシュ:ありがとう!それも気をつけたことの一つなんだ。音調が自分の意図しているものかどうかを、時間をかけてゆっくり確かめながらレコーディングしたんだ。美しいピアノの音色と美しいドラムの音を録音したのに、その後しょぼいものが入ったら台無しだからね。

 僕は特にドラムのスネアの音とピアノの音がすごく気に入ってたんだけど、音が少なければ少ないほどそこにあるものが明確に聴こえる、というのがこのレコードの意図してるところでもあるんだ。そしてそれは自然と詞のテーマにも当てはまって行った。今僕らが聞いてるピアノの音は100年前の音と同じで、そこから100年経ってもまた同じように聴こえるだろうってね。
音楽を時を経た会話の比喩だと考えるなら、ピアノみたいにこれ以上は単純化出来ないようなものもあるし、そういうのが面白いと思う。ピアノがこれから先この世の中からなくなるっていうこともありえないしね。

――あなたの曲のピアノの使われ方は、60年代の古き良き時代を彷彿とさせます。「ピュアコメディ」の製作にあたって、サウンド面で特に影響を受けた音楽などありますか?

ジョシュ:レコーディング後のプレイバックを聴いてる時に、意識したわけじゃないんだけど手拍子とかドラムやピアノの音とかニール・ヤングの「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」っぽいなぁって。あとはボウイの「ハンキー・ドリー」とか、キンクスの「ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦」とかね。あの辺の本当に美しくて音がシンプルで、かつ生命力に溢れた普遍的なアルバムのような物を作ったっていう感触はあったよ。

 実はこのレコードを作るのにはちょっとしたリスクもあったんだ。今の時代って聞き手がごちゃごちゃした音に慣れてしまってるから、このレコードを聴いてシンプルすぎて物足りないと感じる人もいるだろうって解ったし。デジタルな作り方だと、音がぎゅうぎゅうに積み重ねられているからね。今のレコードっていうのはもう際限なく音がダブっててちょっとクレイジーだよね。だからそういうのが音楽だって信じ込んでいる人も沢山いると思うんだ。

 でも僕の念頭にあったのは、「ハンキー・ドリー」や「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」なんかの最小限の音で構成されたレコードだったんだ。ハンキー・ドリーなんて本当に何もギミックがないんだよ。でももう一回注意して聴き直してみたら分かると思うんだけど、本当にピアノとベースとドラムだけ!あと僕はプラスティック・オノ・バンドも好きなんだ。彼女達のレコードも良質な曲があって、そこにすごいボーカルがあって、それだけで成立してる作品だと思う。

――今回のアルバムは今までのあなたの曲に比べたら少し長くてスローな曲を多いと思いました。前作は大体一曲が4分程度だったと思うんですが、今回は平均して5分くらい。これはわざとそういう風に作ったのですか?

ジョシュ:ハハハ。その視点面白いね。曲の長さに関してはみんなそれぞれ意見を持っているみたいだけど。時間っていうのは相対性があるじゃない?いや、断固として相対性があるんだよ!(笑)

 なんて言うのかな、高校の時に教師が作文を宿題にしたんだけどさ、彼は何枚書けとかそう言うことは一切言わないんだ。それって結構イラっとしたんだよね。「何枚書いたらいいんですか?」って聞いても「書けるだけ」としか言わないんだよ。実はそれがずっと心に残っててさ。例えば僕の「リーヴィング・LA」って曲は、何分にしようか?って考えて作ったわけじゃなくて、5分くらいかなぁって感覚だったんだけど。でもあの曲って聴いてる人たちの感覚をおかしくするんだよ。こっちも演奏する前に「この曲は15分ほどあるから覚悟して聴いてくれ」とか言わないじゃん?それで初めてライブで演奏した時に観客の様子をみてたんだけど、終わった後にみんな一応に「今の何分くらい演奏してた?5分?20分くらい?」って反応だったんだ。同じようにスコット・ウォーカーやウォーカー・ブラザーズの曲も3分くらいのはずなんだけど、あの曲が3分のわけがない!ってなる。

 あれだけのことを3分間に詰め込むなんてほぼ不可能に近いからね。それが僕にはないスキルかな?僕の場合はもっとこう、どう言うんだろう?とりあえず僕の音楽を聴いてくれる人っていうのは僕のギターのテクに注目してるわけじゃないからね。詩人としての要素が強いと自分を表現するのに少し時間がかかるんだよ。

――詞といえば、このアルバムでどの曲の歌詞が一番気に入ってますか?

ジョシュ:うーん、多分「リーヴィング・LA」かなぁ? この曲は僕にとって完全な失敗作が、もしくは代表作みたいなものだから。そういう二面性が好きなんだよね。この曲のバイヴについて聞かれる時は、「まぁ完全に方向性を間違った曲が、もしくはマスターピースだね」って答えるようにしてる。「すっごいカスじゃん!」っていう意見と「今までの最高傑作だよ!」っていう意見と、受け手によっては評価が完全に二手に分かれる曲だと思うよ。

――あなたの曲を初期の頃からのファンだった人が周りの人に「このアルバム最高だよ!」って勧めてそれを気に入った人たちがライブを観てもっとあなたの虜になるってことや、逆にフェスやライブであなたを初めて観た人たちが気に入ってアルバムを買ったってことをよく聞くのですが、それってあなた自身にとってはどういう風に思いますか?

ジョシュ:それは光栄だな!僕は誰かにこのシンガーソングライターが良いよって勧められたら、あんまりすぐに気に入ったりはしないんだ。だってここが良い!っていう決め手みたいなのを見つけるのってなかなか難しいだろ?僕が考えるに、シンガーソングライターの一番の魅力は人となりだと思うんだよね。だからその人自身を好きになれるかどうかというのが、ファンになるかどうかのきっかけになるんじゃないかな? 

 もし誰かが「僕の友達のテッドって超面白くて最高だから、絶対に君と気が合うよ!」ってすごいプッシュしてきても「そいつクソみたいな奴にしか思えないし、別に会いたくもないよ。」ってなることもあるでしょ?でもさ、これちょっと大げさに例えかもしれないけど(笑)、バーで誰かと知り合って「こいついい奴だな」って思って、後からそれが友達の言ってたテッドだったって分かって「こいつテッドだったのかよ!」ってなったりするよね?そんな感じ?ハハ。(後編に続く)

Interview : Alan Rice
Transcription : Lisa Y Sato
Live Photo : ERINA UEMURA

◎リリース情報
ファーザー・ジョン・ミスティ『ピュア・コメディ』
2017/04/26 RELEASE
OTCD-6098 2,300円+(tax out)


◎イベント情報
【FUJI ROCK FESTIVAL '17】
日程: 2017年7月28日(金)・29日(土)・30日(日)
会場: 新潟県湯沢町苗場スキー場
※ファーザー・ジョン・ミスティは7月28日に出演

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